ストーリー


埼玉県郊外の街。女子高生の絵里香は、どん底にいた。彼氏の裏切りによって、心と額に深い傷を負ってしまったのだ。傷を理由にバイト先のファミレスから出勤を拒否された彼女には、お腹にいる彼氏の子を中絶する金の当てもない。
みじめな絵里香を呼び止めたのは、キャバクラ「エルセーヌ」のマネージャー・新海だった。
2日後、大宮の繁華街。絵里香はエルセーヌに恐る恐る足を踏み入れた。笑顔で迎えた新海は、彼女に「瞳」という源氏名をつける。時給4000円のバイトが始まった。緊張の中、たった5日間で10万円を手にした絵梨香は、翌日、病院で中絶手術の麻酔から覚め、泣いていた。

絵里香は、過去と決別し、「信じること」をやめた。そして、エルセーヌで働く道を選ぶ。“彼女いない歴35年”の屈折した会社員・名輪が、絵里香の最初の指名客となった。もじゃもじゃ頭の彼はベートーベンという密かなあだ名で絵里香のノートに記録された。客達はそれぞれに、孤独や欲望などという名の「心の穴」を持っていた。
彼女は、彼らが願うままにその穴を満たしていく。平気で嘘もつけるようになった。
1年後、絵里香はエルセーヌで?1のキャバクラ嬢となっていた。
だが、焦燥感から逃げられない。誰よりも深い自身の「心の穴」を埋めるべく芽生えた野望、それは、東洋一の歓楽街・歌舞伎町でのし上がることだった。

歌舞伎町でトップクラスの高級店エデン。絵里香は、「胡桃」という源氏名で華麗な戦場に飛び込んだ。No.1キャストの美々や同僚たちのイジメに対抗しながら、わずか2ヶ月でNo.2に上り詰めるという、店の新記録を打ち立てる胡桃。
だが欲しいのは?1の座だけ。
美々とのライバル関係は、熾烈を極めていく。
だがある夜、泥酔した美々を男達の危害から救ったことから、ふたりには、危険な戦場に身を置く者同士の共感が芽生えていく。ひりひりする毎日の中で、美々は摂食障害、胡桃自身も買物依存症に苛まれていた。
ある夜、体調不良で欠勤した美々は、自身の最も重要な太客・冴木の接客を胡桃に頼む。足の引っ張り合いが常識のこの世界で、美々は胡桃を信用したのだった。
エデンのVIPルーム。事もなげに高価なロマネ・コンティをオーダーした冴木は、暗い欲望を秘めた目で胡桃をアフターに誘う。
迷う胡桃だが、それが何を意味するかわかった上で、心を決めた。その夜、彼女は冴木のマニアックなセックスに身を任せる。
冴木は美々から胡桃へと乗り換えた。冴木と一緒に暮らす約束までしていた美々は、胡桃の裏切りに狂乱する。こうして胡桃は、惜しげもなく大金を使う冴木を客につけ、孤立と引き替えにNo.1の座を勝ち取った・・・。

胡桃は、彼女を手に入れるためには誰もが喜んで人生を投げ出すようなキャバクラ嬢となっていく。金ヅルでなくなれば、すがる冴木も捨てた。普通のサラリーマンに過ぎぬベートーベンには、胡桃にとって特別な存在だと信じ込ませ、借金を重ねさせて1千万もの金をつぎ込ませている。
そんな時、胡桃は金融界の若きカリスマ・大野と出会う。「何も信じない」と決めた心が、その出会いで揺れ始めた。「獲物」のはずの大野の素顔にどうしようもなく惹かれてしまう“絵里香”がいる。でも走り続けなければ、この場に居続けなければ、昔の弱い自分に戻ってしまう・・・。胡桃は、微笑みの下で誰にも見せられぬ恐怖と戦い続ける。

各店の?1を集めてオープンするという最高級店・歌舞伎町ドルシネア。胡桃は、その“顔”としてエデンから引き抜かれた。オープンの夜、称賛と嫉妬の視線を浴びながら、まるで世界を手にした女王のように、大野と腕を組んで出勤する華やかな胡桃がいた。

・・・そんな時、運命を揺るがす事件が起きる。果たして、欲望の街を走り続ける彼女がたどり着いたところとは?